インタビュー

「相手に伝える」から「自分の考えを伝える」意識の変革

コーチングを取り入れたことで起きるのは、どういった変化なのだろうか。取り入れる前とその後では、どのように意識が変わっていくのだろうか。今回は、株式会社CoNico(コニコ)代表取締役の佐野孝行さんに、コーチングを導入後に起きたご自身や周囲の変化について、インタビューをおこないました。

佐野 孝行 氏
代表取締役 CEO / 最高経営責任者 兼 開発責任者
心理カウンセラー

複数の会社に開発キャリアを積んだ後に、アパレル通販企業に取締役兼CTOとして経営に参画。
2010年グリー株式会社に入社し、「探検ドリランド」のプロデューサー、シニアマネージャーなど責任者として、複数の事業に従事。
2017年よりココネ株式会社に入社し、事業本部長、マーケティング室長として内製組織の構築から組織開発に貢献。マネジメント、組織開発にてココロの課題解決の必要性を感じ2021年株式会社CoNicoを設立

職場でのトラブルは人間関係に起因する

チームビルディングやマネジメントに取り組んでいた時期に、私の仕事の内容や進め方をみていた先輩から勧められたのがコーチングでした。

CTIジャパンのコーチングの有資格者でもあったその方からコーチングについて教えて頂いてから興味を持ち、CTIジャパンやコーチ・エィのホームページを見たり、コーチングやコーチングから紐付いて出てくる傾聴などに関する書籍を50~60冊買って読んだりしていくうちに、コーチングへの理解を深めていきました。

職場で起きるトラブルの大半が人間関係に原因がある為、それを解消するためには「傾聴」を基本とするコーチングの考え方が活かせると思い、取り入れることにしたんです。

YouメッセージからI(アイ)メッセージへ

以前は「何で?どうして?」と、トラブルなどに対応する為に、私が理解するための質問と、アドバイスで解決しており、本人が自分で考えて成長すると言う機会を奪っていた事に気付きました。

また、もう少し考えてくれればできるのに、何でこの程度の事ができないんだと、腹を立てる事もありましたが、コーチングの考え方に触れるうちに、そうした感情は相手への期待からくるもので、さらに掘り下げていくと「できると思って依頼したのに。」「わからないなら聞いて欲しかった。」という期待とのズレから生じることを理解しました。

そういったギャップを頭で理解すると、冷静になっていくのを感じました。そういうことを繰り返していくうちに、相手への発言や意見に対して、アンガーマネジメントができるようになっていきました。

コーチングには、「You(ユー)メッセージ」「I(アイ)メッセージ」(※)っていうのがあります。例えば「何でお前はできないんだ」と声をかけるのではなく、「僕は君がこれをできると思って期待して依頼したんだよ」と。相手を否定するのではなく自分のメッセージを伝えることで、相手に気持ちを伝えやすくなりました。

※You(ユー)メッセージ、I(アイ)メッセージ:Youメッセージは「あなた」が主語になるメッセージの発し方。「あなたは……だ」などの、断定的な表現を使うのが特徴。I(アイ)メッセージは、「私」が主語になり、相手の行動や存在が自分へどんな影響を及ぼしたのかを伝える。相手に対する決め付けの表現ではなく、あくまでも「私はこう感じた」と感想を伝えることで、相手が受け止めやすくなる効果がある。

人は変えられないけど、自分の考え方は変えられます。人と接する仕事をしている人は全員、コーチングを学ぶべきだと思っています。コーチングには、コミュニケーションの基本となる要素が詰まっているので、本音を言えば義務教育に取り入れてもいいくらいです。コーチングを相手も知っていれば、コミュニケーションを取るときにとても楽になるはずです。

傾聴し続けることの難しさを痛感

コーチングを勉強し始めた頃に部署異動になり、そこでもマネジメントとチームビルディングに携わりました。

異動後に私がしたのは、まずメンバー全員にメッセージを伝えることでした。「上司だけど優秀というわけではなく役割が違うだけなので、あまり期待しないでほしいこと、その代わりやって欲しいことを相談してくれれば解決できることはするし、解決できなかったらできる道筋を探そう」と。もう一つは期待値の擦り合わせです。「あなたにこういうことを期待したい」と、やって欲しいことをメンバーやチーム内で分担して実行してもらいました。

もともと1on1(※)を定期的に進めていたこともあり、メンバーとチーム、それぞれ動きやすい環境をつくれました。

※1on1(ワンオンワン、1on1ミーティングとも):上司と部下が1対1で、30分程度時間を定期的に設けて対話するマネジメント手法。部下の仕事ぶりの評価や仕事の進捗管理をせず、話の中で上司が部下の能力を引き出したり、発揮させるように働きかけるアメリカ・シリコンバレーのスタートアップが発祥と言われている。

コーチングを取り入れたことで、チームが上手く回っていくのを実感しました。一方で、メンバーと1対1で向き合う機会が増えるにつれて、傾聴の難しさと向き合うことになりました。頭ではダメだと分かっているけど、アドバイスしたくなることが時折あり、どうにか今のところは我慢できていますが……。

メンバー一人ひとりが目標を設定し、主体的に動くような自走型組織で育成する人材には、アドバイスをしてはいけないんだなというのも痛感しました。

コーチングの基礎知識を身に着け、相性のよいコーチを選ぼう

コーチングを受けるときは、「コーチングの基本」や「マンガでやさしくわかるコーチング」などの入門書籍(※)を読んだり、コーチングのWebサイトを見たりしてあらかじめ基礎知識を身に着けてからの方がオススメです。そうすると、コーチの発言の意図が見えてくるし、コーチングに対する理解が早まると思うんですよね。それに、自分がマネジメントをする立場になったときに、コーチングの考え方が部下とか同僚とかにも使えるはずなので。

コーチングにはコーチの技量がはっきりと表れます。得意分野やキャリアもコーチごとに違うので、コーチと話してみて、自分の抱える課題感が得意としている分野とマッチするか、信頼できそうな相手かどうかを見極めてから利用したほうがいいです。家族や仕事関係者とは関係がない第三者だからこそ、気の置けない話し相手として慎重にコーチを選んでください。

それからコーチには、CTIジャパンやコーチ・エィといったコーチのトレーニングプログラムでICF(国際コーチ連盟)の資格取得した人がいいですね。ICFの資格取得には数百時間かかりますし、実際に有償でのコーチング経験も必要になってくるからです。

試しに受けたコーチングで、相性が悪いと、コーチングは自分には合わない、不要だ。と感じるかもしれませんが、相性の良いコーチを探す事が大切です。

まとめ

一見相手の立場に立っているようでも、言い方次第では自分の思いをぶつけているだけに過ぎず、相手を不快にさせてしまうことも多々あります。

コミュニケーションが円滑に運ぶためには、相手が何を大切にし、何を考え、何を求めているのかといった、相手への好奇心を向けながら相手を主役にした会話をすること。友人や家族との関わりだけでなくビジネスの現場でも、コーチングの考え方を取り入れることで、風通しの良い組織へと変化していくでしょう。

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