これまでコーチングガイドでは、コーチングを受けた、クライアント側の感想をお伝えしてきました。今回からSansanの人事部で社内コーチとしてご活躍されている三橋新さんのインタビューを、2回にわたってお届けします。
第1回目は、コーチングに出会うきっかけとなった挫折経験や自身の強みなどを、三橋さんに語っていただきました。
キャリアを見つめ直した、2つの大きな挫折
簡単に自分のキャリアを紹介しますと、まず人材派遣会社に新卒で入社しました。単に社長になりたいから、社長の近くで働きたいという思いでその会社を選んだんですが、その会社では、社長室に入って、企業と派遣スタッフをつなぐコーディネーターや営業といった現場経験を2年ぐらいして、25~26歳で事業企画をさせてもらえるようになりました。
しかし、ちょうどその頃に会社が事業停止を受けるなどいろいろあり、社長の近くで働かせていただく中で社内の状況を見て、社長になりたいと言えなくなってしまいました。その後別のグループ会社に出向したのですが、上司との関係性で結構心身ともに参ってしまい、そんなとき、今も営業部長でSansanにいる、人材派遣会社時代の同期から「ウチに来ないか」と誘ってもらいました。
確か2009年で、29歳のときに29番目の社員として、Sansanに入社しました。入社当初、担当業務は明確に決まっておらず、まずはサービス理解が必要だということで1年弱くらい営業にいました。その後2年目からは人事、総務、法務といったバックオフィス業務を何でもこなしていました。
しかし、会社が成長するにつれて専門的に各業務のキャリアを積んできた人たちが入社することが増え、素人である自分と彼らとの差を思い知ったんですね。自分のキャリアの限界を感じたのが、コーチングを見つける一番大きなきっかけになりました。
「聞き上手」という自分の強みを悟る
2回の挫折を経て、改めて自分の「好き、得意、人のためになることは何だろう」と深く見つめ直したとき、自分は人の話を聞くことが得意だという強みに気づきました。前職の社長からも「お前聞き上手だよな」って言われたこともあって、何となくは認識していたんですけれど。
なぜ自分は聞き上手になったのか、思い当たる大きな体験はありました。コーチングを学ぶ過程で自己を深く内省する機会が多々あり思い至ったのですが、小学校4年生のときに友達とケンカして、相手の家族に謝りに行った帰りに、親にひどいことを言われ、話を聞いてもらえなかったんです。それで人の話を聞こう、本当はどう思っているのかな?と相手の心の声を聞こうと思うようになりました。
その後も、コーチングの領域でキャリアを積むことを決めたきっかけはいくつかありましたが、今の代表の寺田から「三橋、コーチングやってみたらどうだ」と言われたことや妻がコーチングの本を家に持っていて少し読んだことが転機となりました。中でも一番大きなきっかけは、ある役員から「お前の強みは雰囲気だ」と言われたことだと思います。強みというとスキルとか技術という考えが当時の自分にはあったんですが、強みが雰囲気だということを受け入れて図書館で本を探し、コーチングやファシリテーションの本に出会いました。
その時にビビッときた本が、CTIジャパンという会社が監修した「コーチング・バイブル(第3版)――本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション」という本で。そこに僕が大事にしてることが書いてあって。コーチングの領域に進もうと決意しました。
CTIジャパンのコーチングとの出会い
2011年ぐらいからコーチングを始めました。そのときからずっとコーチングしてる人は何人かいます。活用目的は自身のメンテナンスみたいな感じだと思うのですが、半年に1回、2~3カ月に1回、必要な時に利用する人もいますし、毎月の人も何人かいます。
コーチングを知ったとき、受ける側ではなく、コーチとしてクライアントにコーチングする側になろうと思いました。それでコーチになるための機関をいろいろ調べていくと、コーチ・エィとCTIジャパン、今はもうなくなってしまったんですがチームフローという3つの機関が日本にあることを知りました。それぞれ説明会に足を運んで話を聞いていくうちに、ビジネスのためのコーチングではなく、人生を扱うコーチングをしたいという自分の思いに気づき、CTIジャパンのコーチング講座を受けることにしました。
講座は基礎、応用、プロフェッショナルコースがあり、基礎コースでは全3日間集中して基礎を学びました。応用コースは4つのコースがあり各3日間。それを終えるとプロフェッショナルコースが約9カ月間あり、10人ぐらいの仲間で一緒に学んでいきました。そのころ、コーチングができるようになるためにまずはクライアントの体験をする意味合いで、コーチをつけました。実際受ける側になってみると、凄く楽しく学びが多かったです。
コーチングを学んでいくうちに、今まで自然とやってきたことが体系化されていることに驚きましたし、体系化されたプロセスを学ぶことで、意図的にアクションを起こせることに面白さを感じて、会社で声かけてコーチングをさせてもらうことを繰り返していきました。
そんななかのひとりにオブ(小父内さん)がいたんですよね。
自己開示しやすい文化のある会社でコーチングをすること
もともとSansanには自己開示の文化があって、自分の強みや弱みなどパーソナルなことを話すハードルは低いと感じています。
Sansanでは、ストレングスファインダーとエニアグラムについての本を入社後に渡され、そこで知った自分の強みや特徴を発表する「強マッチ」という社内制度があるんですね。入社したら必ず受けなければいけない研修の一環です。社内コーチングをする際には、ここで得た社員全員のストレングスファインダーで傾向と対策を事前にインプットしたうえで実施しています。
こういう企業風土のある会社でコーチングしたいと思ったとき、まず「全員にコーチングしよう」とマインドセットしました。そしてそれを実行に移したんですね。コーチングを始めたころは、「コーチングって何?」というようにコーチングを知らない人がほとんどでしたが、役員全員をはじめいろんな人をコーチングしていくうちに「コーチングってこういうものか」という理解が少しずつ広がっていったことは、社内コーチングを進める上で大きかったかもしれないですね。
当時のチャレンジの一つとして、代表の寺田をコーチングする機会もありました。そのとき、相手と自分との関係性がコーチングに大きく影響すること、関係性を意識することなくコーチングをできるものではないことに気づきました。社員と社長は究極的な評価関係じゃないですか。僕自身もやっぱり冷静でいられなかったし集中できなかったです。
そして150人ぐらいの会社規模になった頃、体験コーチングを受けてもらう試みを実施しました。経験者が70人くらいを超えた時にそれがちょっとバズったというか、口コミが非連続に広がったんですね。エレベーターで一緒になった社員から「コーチングしてください」って言われたり、ある部署の人をコーチングした翌日に、その人がいる部署のみんなから申請がきたり。そういう社内の変化には驚きました。
ビジネスコーチングって前提条件の差があり過ぎるともう会話が成立しないんです。そういう意味ではコーチが社内にいるメリットは凄くあると思っています。企業の文化や状況を同じ社員として体験し理解しているので、より端的に内面の課題というか潜在課題にアプローチできるところは、社内コーチのメリットです。
まとめ
今回は三橋さんがコーチングに出会い、ランチをしながら昼休みにコーチングをはじめたころ、チャレンジングかつオープンマインドな企業風土に支えられ、徐々に社内コーチが浸透していく様子までをご紹介しました。
自分自身を深く見つめ直すきっかけは、ビジネスシーンで出会うことが多くあります。コーチングを受けるなど、見つめ直し方は人それぞれですが、そこには今までに気づかなかったこと、出会えなかった新たな自分自身に出会えるでしょう。