インタビュー

キーワードは「自己探究心」と「壁と向き合うこと」~社内コーチのパイオニア・三橋新さんインタビュー後編~

これまでコーチングガイドでは、コーチングを受けた、クライアント側の感想をお伝えしてきました。今回はSansanの人事部で社内コーチとしてご活躍されている三橋新さんのインタビューを、2回にわたってお届けします。

後編では、コーチとして実際にコーチングをすることで起きた感情の変化や、チームコーチングへのシフト、コーチングに向いている人の条件などを語っていただきました。

個人コーチングからチームコーチングへ

最初は個人に対してコーチングをしていったんですが、徐々により難易度が高いチームに対してのコーチングへ発展していきました。

個人コーチングを受けて、内面の課題がクリアになった人がセッションを終えてチームに戻っても、パフォーマンスを発揮できないケースがいくつかあったんですね。そのとき、チームの関係性が個人のパフォーマンスに与える影響の大きさに原因があるのではないか、個人コーチングだけでは限界があり、チームの関係性への直接的なアプローチが必要だと気づいたんです。

その後、システムコーチを養成してるCRR Global Japanという会社で、個人コーチングと同じようなプロセスでシステムコーチング®を1年半ぐらいかけて学びました。システムコーチング®は、2人以上の集団に存在する「関係性」を取り扱うコーチングの手法です。先ほど挙げた個人コーチングを受けた人がチームに戻って影響する関係性をメインで扱うことの大切さと新たな可能性をここで学びました。

前の記事では自分は人生のコーチングを扱いたいという話をしました。それは今も変わりませんが、ビジネスの中でいかにコーチングの効果を示せるかという点にチャレンジしたいという思いがあります。今も会社に所属してコーチをしているのはやはり個人の人生の目的がある上で今の会社の仕事があって、そこでパフォーマンスをあげたり成長していくことが大切なことだと思うからです。その成長のプロセスにおいてチームのダイナミクスだけではなく、いろいろな複雑な影響が絡むので、そこにもアプローチしたいなと思います。

コーチングをすることで起きた、内的変化

個人コーチングでもシステムコーチング®でも、コーチングを受けた人や部署が変化を見せたとき、じんわりとした喜びと一抹の寂しさを感じます。

個人の場合で説明すると分かりやすいのですが、1年半ぐらいの期間、週1回とか月1回とか定期的にコーチングを受けた人はそれなりに変化して、自走できるようになるんですよね。コーチからも離れていくというか。最初は例えば週1回やってたのが月1回になって、3カ月に1回になって、必要なときに声かけますみたいな感じに変化していく。それは凄く嬉しいのですが、卒業していく感じもあるので少し寂しさを感じることもあります。

よく「コーチだから感情のコントロールが上手なんでしょ」と言われるのですが、もちろんコーチをしていても人間なので、いろんな葛藤がありますし失敗もします。感情的になることも怒ることもあります。でもそういうとき「なんで自分はその感情が生まれたんだ?」という問いが生まれて、踏みとどまって自己内省(学習)し次の行動に繋げられることはコーチングのいいところだと感じます。

コーチングの難しさとやりがい

コーチングで大切にしているスタンスがあります。それは相手の立場に立つことです。相手の気持ちを自分も感じて、相手の気づきを促すために必要な問いを具体的にイメージしていくことです。相手と自分を別々の島に例えるとしたら、相手の島に自分の足が片足だけ入ってるイメージでコーチングするといい問いが生まれやすくなりますね。いわゆる共感的な関わりですが、相手の島に入りきってしまうと客観的に状況が掴めなくなることでコーチングが進めにくくなってしまうため、出たり入ったりしながら適切な距離を保つことが重要です。1対1の関係性において評価判断がなく何でも言えて、安全な居場所があることはとても大事だと思います。自分を肯定して大きなものにチャレンジするパワーを得るというか。そのようにパワーを得たり、また話をすることで癒されたりすることがコーチングの本質じゃないかなと思っています。

それから自分が学んできたシステムコーチング®では人との関係性を扱うんですが、関係性をコーチングで扱うことは凄く複雑ですし、コーチング中に何が起きるか分からないので、とても難しいですね。けれど凄くチャレンジのしがいがあると感じています。一般論としてコーチがクライアントと向き合う中で自分の中の恐れを自覚することがあります。その恐れを自分自身で上手く扱うことができないと、必要な関わりができなくなります。なので、そういった自分の中の恐れやその恐れのもととなっている幼少期の体験など、自分自身とちゃんと向き合って1つずつ消化していくことが大切です。コーチングの実施前後でクライアントとの関係性の変化を体験をすると、難易度の高いテーマに対しても、前向きにチャレンジしたいという気持ちになりますね。

キーワードは「自己探究心」と「壁と向き合うこと」

コーチには人の話を聞くことが好きな人、自己を探究できる人が向いていると思います。自己探究心、さらに言うと人間への探究心を持ってる人というか。今の自分自身がどう作られてきたのかが紐解かれていないと、今の自分が分からなくなるので、幼少期の体験も含めて自己を探求するし、過去の体験が今の自分に影響することが理論的にどうなってるのかを理解しながら自分自身も変化していく人がコーチとしては凄く向いてると思いますね。

自分の話を本当に心から聞いてもらったという体験って、みなさんどのくらいあるのでしょうか?最初は自分が相談したのだけれど、気づいたら相手の経験談を聞かされているということはよくある話です。

僕は全人類が相手の話に耳を傾けることができたらいいなと思います。人は自分の話や意見を伝えたいし聞いてもらいたいという側面があります。そういうものを自分で一度保留しながら相手が本当は何を思っていてどういう気持ちなのかを聞ける力は、小さいころから養えるといいなぁと思いますね。

コーチングを受けてみることをおすすめする人は、挑戦し続けていたり何らかの壁と向き合ってる人ですね。今までの成功パターンが通用しないとか、今まで通りやってるのにうまくいかないなという場合は、潜在的な壁があり、パターンを変えないといけないときだと思います。そういうケースではすごくコーチングの効果があると思います。逆に挑戦し続ける中でも、自分の中で問いが生まれて内省したり、そういう時間を意識的に設けたりできる人ならば、コーチングは不要かもしれません。

特に忙しい方ほど、重要度は高いんだけど緊急度が低い、自分自身の課題のために使う時間をなかなか取りにくいのではないでしょうか。そういう方こそ、あえてコーチングを受けることで今の自分を見つめ直したり、今の重要度を探求したりできる時間を意図的に確保することが大事ではないかなと思います。

まとめ

三橋さんのインタビューを進めていくうちに、特に印象に残ったのが、以下の言葉でした。

「全人類が話を聞けたらいいなと思う。人は話したいし自分の意見を伝えたいし、そういうものを自分で保留しながら相手が本当に今何を思っていて、どういう気持ちでいるかを聞ける力は、小さいころから養えるといいなぁと思いますね」

人の話に耳を傾けること、相手がどんな気持ちや思い、本音を抱いているかを想像しながら向き合うことは、思いのほか難しいものです。自分と向き合いながら相手に寄り添って、ともに走れる人が増えれば、組織はこれまで以上に風通しの良い場所に変化するでしょう。

関連記事