社内において「社員のモチベーションをもっと上げたい」「チーム全体のモチベーションを上げたい」という声は常にあるはずです。そのための様々な手法を紹介している書籍を
読み、実践している現場の管理職も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、注目されている数々のモチベーション理論の中から「X理論・Y理論」と
「自己決定理論」についてご紹介いたします。
モチベーションとは?
モチベーション(Motivation)とは、人が何かをする時の動機づけや目的意識、
原動力のことです。車にたとえれば、走るために欠かせない「エンジン」をイメージ
するとわかりやすいのではないでしょうか。
特に大勢の人間が集まる企業では、どれだけ多くの社員からモチベーションを引き出せるかが企業の成長にも大きく影響すると言われています。
それでは、ここからは「X理論・Y理論」と「自己決定理論」を順番に見ていきたい
と思います。
X理論・Y理論
人間のもつ欲求を5段階で説いたマズローの「欲求5段階説」をご存知の方も
多いかと思います。そのマズローの説をさらに企業の経営組織の観点で深化させたのが
「X理論・Y理論」です。
これはアメリカでハーバード大学やMITでも教鞭をとった心理学・経営学者の
ダグラス・マクレガーの理論で、人間の本質的な部分を以下のように提唱しています。
【マクレガーのX理論・Y理論】
- 人間の本性には、本来働くことが嫌いで怠惰なネガティブな部分(=X部分)と、
将来○○を叶えてみたい・実現させたいと思う自己実現欲求などのポジティブな部分(=Y部分)の2つがある。 - 企業の管理職は上記の点を踏まえ、人間の本性であるX部分とY部分を分けて捉え、
それぞれに対して適切な行動を取るべきである。
X理論
- X部分が強い人の特徴として、マズローの欲求5段階説の「生理的欲求」
「安全欲求」「社会欲求」といった低次な欲求が強い状態にあることが
考えられる。 - 人のネガティブな部分を表すX部分が強い社員は、人が元々もつ怠け者の部分が
顕著で、野心や責任感も薄い気質のため、仕事の遂行には強制や命令が必要となる。 - X部分が強い社員には、①業務範囲を明確に定める、②懲罰を明示化、
③賃金アップを約束する等、アメとムチ作戦でモチベーションのコントロールをしていくマネジメントが最適である。
Y理論
- Y部分が強い人の特徴として、マズローの欲求5段階説の「承認欲求」
「自己実現欲求」といった高次な欲求が強い状態にあることが考えられる。 - 人のポジティブな部分を表すY部分が強い社員は、元々自己実現欲求が強い
気質のため、仕事の遂行にはある程度の選択権や自由度が必要である。 - Y部分が強い社員には、①管理職―社員との間で協力関係を構築する、
②社員の目指す目標と企業の目標とを一致させる等、社員自らによる
コントロールの余地を条件として提示することでモチベーションを維持する
マネジメントが最適である。
【ポイント】
一般的な社員のモチベーションの上げ方として真っ先に浮かぶのが、給与アップや
研修制度、福利厚生などです。
一方、X理論・Y理論によるマネジメントは、管理職と社員とのかかわりや関係によって
モチベーションをコントロールしていくというものになります。社員一人ひとりの可能性を一律に捉えず、より人間関係的で、社員の感情的な部分からいかにモチベーションを引き出すかに注目している方法と言えます。
【この理論をうまく使うために、管理職にとって必要なことは?】
管理職―社員間の人間関係によってモチベーション向上を促す以上、管理職としては、
①社員の欲求をいかに理解するか(ヒアリング等)、②社員の欲求と企業それぞれの目標をいかに紐づけられるか等が重要となるでしょう。
自己決定理論
「自己決定理論」とは、アメリカ・ロチェスター大学の心理学者である
エドワード・デシとリチャード・ライアンによって発表された理論です。
【デシとライアンによる自己決定理論】
- 自己決定理論は、内発的動機づけへと至るまでの道筋を探求する理論である。
- 自己決定理論のベースは、3つの基本欲求と内発的動機づけと外発的動機づけの
連続性にある。 - これまでは二分して考えられてきた「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」
を3つの基本欲求を基礎として再構築することで、2種類の動機づけを連続して
捉えることができる。
自己決定理論
- 自己決定理論の基礎となるのは、3つの基本的な欲求である「有能さ」
「関係性」「自律性」である。
有能さ……自分の能力とその証明に対する欲求
関係性……周囲との関係に対する欲求
自律性……自己の行動を自分自身で決めることに対する欲求(※特に重要な欲求)
- 人は上記3つの欲求が満たされることで、内発的動機づけや心理的適応を促進させることが可能となる。例えば、最初は「仕事で必要だから」と上司に言われて始めた語学学習も、少しずつ話せるようになることで自信が生まれ(有能さ)、また同僚と一緒に学ぶこと(関係性)や外国人相手に商談まで任されるようになることで(自律性)、やがて本物のやりがいを感じていくようになる。
- 「アンダーマイニング効果」への注意
アンダーマイニング効果とは、内発的動機づけの状態の人に外発的動機づけを施してしまうことで、内発的動機づけが阻害されるというもの。
外的な報酬によって自律性が削がれた結果、内発的動機づけが低下してしまうとされる。人が自律性を失わずに有能さや関係性を高めるための外的報酬をうまく与えることができれば、これは発生しない。
【ポイント】
自己決定理論によるマネジメントは、人のもつ「3つの欲求」をいかに高めていけるかが肝となります。それぞれの社員がもつ「有能さ」「関係性」「自律性」をうまく高めていけるような働きかけが重要です。
「有能さ」について、例えば社員が発奮できそうなものを社内に用意し
(掲示する/共有する等)、社員がモチベーションを高めていけるような環境を用意するのがポイントです。
「関係性」については、社内研修制度を充実させることで社員同士が高め合い、
学び合える環境を用意するのも良いでしょう。互いに学び合うことで、自分自身の有能さも高める機会にもなります。
「自律性」については、第一段階を達成後、管理職と社員が話し合い、次にどう進むかをヒアリングし選択させることでモチベーションを引き出していくのがポイントとなります。
【この理論をうまく使うために、管理職にとって必要なことは?】
自己決定理論を取り入れる上では、社員自らが「なぜ今、これに取り組むのか?」
を自問することになります。最初のうちは管理職もスキルアップ、昇格、昇給などを社員に明示しておくのも一つです。そして、段階が進むにつれて社員自身の内面の変化
(目的、目標、価値観)を見逃さずに評価してあげることも重要です。
まとめ
モチベーションを高めるための理論は、様々な企業で実践活用されています。
従来のただ締め付ける・進捗を管理するだけではなく、社員一人ひとりが自発的に動ける
ようになるためには、管理する側が人の心に対する理解を高めることが最優先となります。
社員やチームがより効果的に業績を上げていけるようになるためにも、ぜひ一度モチベーション理論を学んでみてはいかがでしょうか。