ここ数年で、コーチングに注目が集まるようになりました。人材育成や組織マネジメントといったスキルの向上、福利厚生の一環などの目的で、コーチングを導入する企業が増えたことが背景にあるからです。また、コーチングをビジネスにしている企業やコーチング資格取得のためのオンラインスクールも現れるなど、日本でも少しずつ知名度を上げてきました。
コーチングの資格にはさまざまな種類があります。ただ、コーチングを実施するには資格は特に必要としませんが、コーチングを学んだ証明として資格を取得する人は管理職者を中心に業種職種問わず多くいます。
今回は、コーチングの資格の種類や主要コーチング資格の比較までを解説していきます。
コーチング資格の種類
コーチング資格とは、プロコーチとして活動するための資格で、国家資格ではなく、民間のコーチングスクールやコーチ養成機関規定のカリキュラムを修得し、試験を受けて認定される民間資格です。
コーチング資格といっても、団体によってコーチングの定義や方法、考え方が異なります。資格取得を考えているのであれば、自身の目的を明確にし、特色やカリキュラムなどを比較しながら選びましょう。例えば、ビジネスパーソンが組織のマネジメントを目的としてコーチング資格を取得したいとき、有資格者が多くて同じような仕事をしている資格取得者が多い資格を選択するといった具合です。
ここでは、代表的なコーチングの資格運営者を3つご紹介します。なお、詳細については後述します。
一般社団法人生涯学習開発財団のコーチング資格
一般財団法人生涯学習開発財団は、文部科学省所管の財団法人です。企業や団体の資格取得事業を、生涯学習開発財団が支援する「資格取得後援事業」を手掛けています。コーチングに関しては、株式会社コーチ・エィが運営している資格に認定を付与しており、初級者向けの「認定コーチ」、中級者向けの「認定プロフェッショナルコーチ」、上級者向けの「認定マスターコーチ」の3種類があります。
国際コーチ連盟のコーチング資格
国際コーチ連盟(International Coaching Federation、以下ICF)はアメリカで創設された、コーチングの資格を発行している団体です。世界各国に支部があり、コーチ育成機関としても世界最大規模を誇ります。ICFが認定するコーチング資格は国際資格のため、海外でも有資格者と認められることが特徴です。
資格の種類は、以下の3つです。自らのコーチング経験に基づいて、実戦的な資格を取得できます。
- アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC)
- プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)
- マスター認定コーチ(MCC)
日本コーチ連盟のコーチング資格
一般社団法人日本コーチ連盟(Japan Coach Federation、JCF)は、コーチの養成とコーチングの研究・普及を行う団体です。コーチング検定試験実施の他に、コーチング技能養成校「コーチアカデミー」の運営や大学の公開講座、コーチング継続学習の支援など、幅広く活動しています。
一般社団法人日本コーチ連盟が運営しているコーチング資格は、下記の2種類です。
- コーチ技能検定試験 (I種)(社)日本コーチ連盟認定コーチ
- コーチ技能検定試験 (II種)(社)日本コーチ連盟認定コーチング・ファシリテータ
コーチング資格取得のメリット
コーチングには資格が必要ではないため、「資格取得が必要なのか」と考える人も多くいるようです。しかし、コーチングは対面を基本とするので、キチンと身につけたいときは、資格取得プログラムを開講している団体で体系的に学ぶことがおすすめです。
ここでは、コーチングの資格取得によって得られるメリットをご紹介します。
学びながらトレーニングを積める
コーチングの資格取得の講座には、座学の時間だけでなくトレーニングの時間もあることが最大の特徴です。座学で得た知識を実際に試せることで、コーチングの技術も身についていきます。また、トレーニングの実践を重ねる仲間のコーチングを見たり体験したり、コーチングをし合うことでコーチングのスキルが磨かれていきます。
職場でコーチングを活用できる
コーチングを学ぶのは、経営者や管理職者に限らず全てのビジネスパーソンにおすすめです。
ビジネスパーソンの場合、顧客との打ち合わせの場で、コーチングの学習で培ってきた傾聴、質問などのスキルを活用することで、顧客が自覚していないニーズや問題点の発見にも繋がるのです。
一方、経営者や管理職者などがコーチングを学び、現場で活用することで、部署やチーム内の円滑なコミュニケーションが図れます。また、部署やチーム内で起きている問題や、メンバーが抱える不満などにも気づきやすくなるのです。結果、部署やチーム内の信頼関係が作られていき、安定した組織運営が実現できます。
団体からのサポートが受けられる
コーチング資格取得のためにカリキュラムを受講すると、受講時だけでなく資格取得後も団体からのサポートが受けられます。例えば、コーチング資格を取得した人たちのコミュニティに参加し、コーチングのスキルを磨ける、団体主催のイベントにスタッフとして参加できる、パートナー企業へ紹介してもらえるなどです。
ちなみに、コーチング資格取得がおすすめなのは、以下に挙げることを目的としてコーチングを学びたい方です。
- 勤務先でコーチングスキルを活かしたい方
- コーチングスキルを活かして、新たな活路を見出したい方
- プロのコーチとして、独立開業を目指したい方など
コーチング資格取得にかかる費用や日数
コーチング資格取得の条件に、ほとんどの団体がカリキュラム履修を求めています。カリキュラム履修にかかる費用はかなり高額で、10万円以上から100万円以上までとさまざまです。履修期間も短いもので約4ヶ月、長いもので1年から1年半かかります。
一般財団法人生涯学習開発財団の場合
履修を開始して半年から1年ほどで、認定コーチ資格を取得できます。その後、1年から1年半で認定プロフェッショナルコーチ資格、1年半から2年で認定マスターコーチ資格……と、徐々にステップアップしていく方が多くいるようです。
ICFの場合
最低限必要となるコーチング経験 | 満たすべきトレーニング時間 | |
---|---|---|
アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC) | 100時間 | 60時間以上 |
プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC) | 500時間 | 125時間以上 |
マスター認定コーチ(MCC) | 2,500時間 | 200時間以上 |
CTIジャパンの場合
上級コースは約6ヶ月かかります。コーチングを実践する時間とは別に、週に約4~7時間拘束時間が別途発生します。
コーチング資格比較
コーチングに関する資格を取得したい場合、コーチングで自分はどうしたいのか、目的を明確にすることが大切です。比較表として以下にまとめましたので、選ぶときの参考にしていただき、不明な点や詳細を確認したいときは、各公式サイトからお問い合わせください。
以下に代表的な資格を紹介します。
資格の名前 |
資格概要 |
主な対象 |
資格取得費用 |
資格取得における認定基準と要件 |
運営団体 |
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1 |
認定コーチ |
初級者向け |
個人向け |
下記いずれも海外在住であれば税金分を免除。 リーダー向けコース:1,100,000円(税込)
|
・コーチ・エィ アカデミアの01〜08を受講。または、 ・1on1コーチを1クール(10セッション)受けている ・5名以上へのコーチング実践経験 |
生涯学習開発財団 |
2 |
認定プロフェッショナルコーチ |
中級者向け コーチングマネジメントの知識と経験を有する |
個人向け |
・認定コーチ資格の保有 |
||
3 |
認定マスターコーチ |
上級者向け コーチングマネジメントの知識と経験を有する コーチングマネジメントの組織での活用の知識と経験を有する |
個人向け |
・認定プロフェッショナルコーチ資格の保有 ・コーチ・エィ アカデミアの01〜30を受講 ・1on1コーチを2クール(20セッション)受けている ・認定コーチ資格取得後に、5名以上へのコーチング実践経験(※) |
||
4 |
ACCアソシエート認定コーチ |
アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC)資格は、 |
個人向け |
ICF本部会員:100USドル 非会員:300USドル |
・ICFが認定するコーチ・トレーニング・プログラム(ACTP)の修了 ・8人以上のクライアントとの最低100時間 ・コーチングの基礎的な知識があることを確認するためのテスト、 |
国際コーチング連盟 |
5 |
ACCアソシエート認定コーチ |
個人向け |
ICF本部会員:300USドル 非会員:500USドル |
・合計60時間以上のICFが認定するコーチ・トレーニング・プログラム ・10時間のメンター・コーチングの、オンラインの出願フォームへの記述 ・8人以上のクライアントとの最低100時間 ・実技審査 ・コーチングの基礎的な知識があることを確認するためのテスト、 |
||
6 |
ACCアソシエート認定コーチ |
個人向け |
ICF本部会員:400USドル 非会員:600USドル |
・60時間以上のコーチ専門プログラムの受講と、証明書類の提出 ・10時間のメンター・コーチングの、 ・8人以上のクライアントとの最低100時間 ・コーチングの基礎的な知識があることを確認するためのテスト、 |
||
7 |
PCCプロフェッショナル認定コーチ |
PCC(Professionally Certified Coach)は、 |
個人向け |
ICF本部会員:300USドル 非会員:500USドル |
・ICF認定コーチ・トレーニング・プログラム(ACTP)の修了 ・25人以上のクライアントとの500時間 ・コーチ・ナレッジ・アセスメント(CKA)の受験 |
|
8 |
PCCプロフェッショナル認定コーチ |
個人向け |
ICF本部会員:575USドル 非会員:775USドル |
・125時間以上のACTP/ACSTH プログラムとしてのコーチ専門トレーニングの修了 ・10時間のメンター・コーチング記録のオンライン出願フォームへの入力 ・25人以上のクライアントとの500時間(有料450時間)のコーチングを記録したもコーチング・ログ記録 ・コーチング実技審査 |
||
9 |
PCCプロフェッショナル認定コーチ |
個人向け |
ICF本部会員:675USドル 非会員:875USドル |
・125時間以上のコーチ専門トレーニングの修了と証明書類の提出 ・10時間のメンター・コーチング記録のオンライン出願フォームへの入力 ・25人以上のクライアントとの500時間(有料450時間)のコーチングを記録したコーチング・ログ記録 ・実技審査 ・コーチングの基礎的な知識があることを確認するためのテスト、コーチ・ナレッジ・アセスメント(CKA)の受験 |
||
10 |
MCCマスター認定コーチ |
国際的に認められた熟練のプロフェッショナルなコーチのための資格。 |
個人向け |
ICF本部会員:575USドル 非会員:775USドル |
・200時間の専門トレーニングの修了 ・10時間のメンター・コーチング ・35名以上のクライアントとの最低2500時間(内、有料2250時間)を記載しているコーチング・ログ記録 ・コーチング実技審査 ・コーチ・ナレッジ・アセスメント(CKA)の受験 |
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11 |
CPCC |
CTIが設けているコアコース+上級コースを修めた上で、 |
個人向け |
上級コースのみお申込みの場合 コース受講料:825,000円 コアコース ・上級コース受講費:715,000円 ※資格試験の再受験が必要な場合は、 ※ただし、申し込みの受理から2週間以内に申込金88,000円 |
・基礎コースから応用コースまでの5つのコースをすべて修了していること ・コース開始時までに、CPCCかつPCC以上を保持しているプロコーチをつけること ・最低5人の有料クライアントを確保すること |
CTI Japan |
12 |
一般社団法人日本コーチ連盟認定コーチ |
I種(認定コーチ)とII種(認定コーチング・ファシリテータ)に分かれている。 |
個人向け |
基礎113,000円(税込) 応用123,000円(税込) 両コース同時申込の場合は226,000円(税込) なお、受験料36,300円(税込) |
下記(1)〜(3)のすべての要件を満たしていること (1)日本コーチ連盟の会員であること (2)日本コーチ連盟認定校コ―チング・ファシリテータ資格を保有していること ※合格証書の写しをご提出いただきます。 (3)日本コーチ連盟コーチアカデミー専科心理専修プログラム初級コースを受講していること(全回出席) |
一般社団法人日本コーチ連盟 |
13 |
一般社団法人 |
個人向け |
基礎113,000円(税込) 応用123,000円(税込) 両コース同時申込の場合は226,000円(税込) なお、受験料は25,300円(税込) |
日本コーチ連盟認定コーチ養成プログラム応用コースまでの課程を修了すること。 |
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14 |
日本コーチング教育振興協会認定コーチ |
認定コーチの資格養成講座に、4日間の特別集中講座があるのが特徴。 |
個人向け |
基礎編【プロコーチ準備コース】 基礎編【一般コース】 基礎+実践編 セット申込み 集中講座 受験料 |
下記【1】~【3】を満たしていること 【1】日本コーチング教育振興協会が提供する下記のいずれかのコースを修了した者 A.コーチング能力養成講座の基礎編および実践編 B.コーチング能力養成特別集中講座(全4日間) 【2】3人以上のクライアントに対し、 【3】日本コーチング教育振興協会の定める倫理基準に同意する意思のある者 |
一般社団法人日本コーチング教育振興協会 |
認定コーチ・認定プロフェッショナルコーチ・認定マスターコーチ
いずれも生涯学習開発財団が認定するコーチング資格です。認定コーチは初級者向け(マネジャーやコーチングを周りの方に役立てたい人などが多い)、認定プロフェッショナルコーチは中級者向け(人事担当者、コーチング研修をする方が多い)、認定マスターコーチは上級者向け(コーチングをビジネスの一環として活躍される方が多い)となっています。
アカデミア履修有効期間中の方と卒業生対象の会員制度「メンバーズ」会員の方を対象にしており、条件が整えばいつでも受験可能です。受験申請は受講生・メンバーズ会員専用のメンバーページより受け付けています。
詳細はこちら
https://coachacademia.com/certification/gcc/exam.html
国際コーチング連盟(ICF)認定コーチ(ACC・PCC・MCC)
ICFは3つのコーチング資格を運営しています。ACC(アソシエイト認定コーチ)とPCC(プロフェッショナル認定コーチ)にはそれぞれ、以下の3つの申請方法があります。
ACTP Path(Accredited Coach Training Program) | ICFが認定するコーチング・トレーニングプログラムを修めていること |
ACSTH Path(Approved Coach Specific Training Hours) | ICFが認定するACTPを修めた上で、コーチング専門トレーニング時間を60時間以上受けていること |
Portfolio Path | ICF以外でコーチング・トレーニングを受けたことを証明する書類(ポートフォリオ)の提出 |
詳細はこちら:
The Gold Standard in Coaching
https://coachingfederation.org/credentials-and-standards
ACC(アソシエイト・サーティファイド・コーチ)
http://icfjapan.com/post/credentials/506
PCC(プロフェショナル・サーティファイド・コーチ)
http://icfjapan.com/post/credentials/530
MCC(マスター認定コーチ)
http://icfjapan.com/post/credentials/535
CPCC(Certified Professional Co-Active Coach)
CPCC(Certified Professional Co-Active Coach)は、アメリカに本部を置くCTI(Co-Active Training Institute)が認定するコーチング資格です。上級コースを修了し、CTIが実施する筆記及び口頭試験(日本語)に合格することで取得できます。「コーアクティブ・コーチング(Co-Active Coach)」といって、以下の4つの考えに基づいたコーチングが特徴です。
- 人はそもそも創造力と才知にあふれ、欠けるところのない存在である
- 本質的な変化を呼び起こす
- 今この瞬間から創る
- その人すべてに焦点を当てる
詳細はこちら
https://www.thecoaches.co.jp/coaching/apply.html
一般社団法人日本コーチ連盟認定コーチ、認定コーチング・ファシリテータ
一般社団法人日本コーチ連盟が認定するコーチング資格で、I種(認定コーチ)とII種(認定コーチング・ファシリテータ)に分かれています。I種では論文試験と実技審査を、II種では学科試験と実技試験をそれぞれ実施。認定コーチと認定コーチング・ファシリテータ資格を取得すると、連盟公認のインストラクターを養成するためのプログラム「テニュア・トラック」を履修できます。
詳細はこちら
https://www.coachfederation.jp/shikaku/detail/
日本コーチング教育振興協会認定コーチ
一般社団法人日本コーチング教育振興協会が認定するコーチング資格です。受験資格(1)~(3)を全て満たしていることが条件で、筆記、実技、面接試験で構成された認定試験を受けたのちに取得できます。認定試験は3ヶ月に1回程度実施され、メールフォームから受験を申し込みます。取得後は資格更新のための講座を定期的に受講しなければなりません。
詳細はこちら
https://acea.jp/procoach/pro-exm/
まとめ
コーチングには必ずしも資格は必要ありません。しかし、コーチングの資格があると人に説明しやすいこと、コーチングビジネスを手掛けている会社が資格取得者を採用条件として挙げていること、個人でコーチングの仕事をはじめたいときも、資格取得しているとクライアントに信頼を得られやすいことなど、資格取得ならではのメリットも多いのです。
また、資格取得には費用と長い時間がかかります。その間にたくさんコーチングを経験すると、「ここまで頑張った」と自分にも自信がつきやすく、エグゼクティブを対象としたコーチングも臆することなくできるようになります。
コーチングスキルを本格的に勉強して、仕事に活かしたいと考えていれば、コーチング資格を受講することをおすすめします。